文学・思想懇話会
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 『近代の夢と知性 文学・思想の昭和10年前後(1925〜1945)』
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あとがき

 本書の生まれる機縁は、一九九七年三月、東北大文学部の一室を借りて行われた「昭和十年前後の"夢と知性"」と題する小さな研究会にまで遡ることができるだろう。当時、仙台に滞在していたマイケル・ボーダッシュ氏から紹介された、Kevin Michael Doak, Dreams of Difference, 1994(のちに邦訳『日本浪曼派とナショナリズム』柏書房)の輪読会を大学院生たちで行っていた。この本を通じて昭和十年前後というプロブレマティックそれ自体と、個別的研究の狭い枠を超えて時代という視座を持つことの重要性とを改めて感じていた私たちの中で、昭和十年前後というテーマで共同研究をしてみようとする動きが出てきたのは、ごく自然なことだと思う。そのころ東北大の大学院生であった山崎の呼びかけで助手・学生たちが集まり、小林秀雄、保田與重郎、坂口安吾らを取り上げて丸一日かけて発表し討議したのがこの会だった。本書のいくつかの論文はこの研究会での発表がもとになっている。

 この時のあつまりをきっかけとして、その後も仙台で研究会が続けられている。文学・思想懇話会(通称うたたね会)という名前を持つに至ったこの会は、主に近代日本の文学と思想をめぐって文学、倫理学、思想史など専門領域を異にする院生たちが集まる、小さいけれど私たちにとって刺激的な場になっていると思う。研究発表者として会に加わってくださった赤木いづみ、押領司史生、菅原潤、高橋秀太郎、玉田典子、野口哲也、福井佐枝子、三浦一朗、八木卓雄の各氏をはじめ参加してくださる皆さんに世話人として感謝したい。

 一方、三年前の研究会で昭和十年前後の時代という問題設定にそれなりの手応えを感じた私たちは、これを共通のテーマとして研究を活字にしたいという気持ちを持ちはじめていた。もちろん当初はささやかな手作り冊子のようなものを考えていたのだが、各人がつてをたどって寄稿を呼びかけたところ少なからぬ反響を受け取ることができた。研究会のきっかけとなる刺激を与えてくれたドーク氏をはじめ、多くの方が趣旨に共感してくださり、全くのご厚意から執筆を約束してくださったのだが、これは望外の喜びだった。

 本書の編者が個人名でなく文学・思想懇話会編となっているのは、こうした経緯を反映してのことである。つまり、私たちの本は、誰か「えらい」先生が計画を立てて弟子たちが書かせていただいたというものではなく、むしろ逆で、駆け出しの私たちの企画に第一線の研究者の方々が乗って下さって生まれたものである。私たちがそのことをいささか気負って、あえて文学・思想懇話会を編集主体として出版へと踏み出したことは書いておきたい。

 とはいえ、一冊の本を作るという作業がそうたやすいはずもなく、編集形態、翻訳などをめぐって紆余曲折の連続だった。原稿が集まった段階になって初めて全体の分量が出版物としては過大であることがわかり、あわてて各寄稿者に圧縮をお願いするという手際の悪いこともあった。しかし、寄稿者の方々にはぶしつけな要請を受け入れていただいたばかりでなく、問題に当たるたびにいろいろとご心配をいただいたり、相談に乗っていただいたりもした。多く方からお力添えをいただいたが、中でも跡上史郎、神谷忠孝、菊田茂男、佐藤伸宏、佐野正人、中村三春、畠中美菜子の各氏のお名前だけはここで挙げさせていただきたいと思う。翻訳に関しては小澤博氏のご助力をいただいた。出版に際しては翰林書房の今井肇氏の手を煩わせた。お世話になった方々に心からお礼申し上げたい。

編集委員
加藤達彦 土屋 忍 野坂昭雄
畑中健二 森岡卓司 山崎義光


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