第5回 文学・思想懇話会(2000.12/16, 17)の報告
報告者:山 崎 義 光
下記の通り、第5回文学・思想懇話会研究発表会が行われました。
日時 : 2000年12月16日(土)午後2時より |
場所 : 仙台文学館
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研 究 発 表
- 赤木いづみ(東北大・院・比較文化論)
女性の隷属と奴隷制度 ――メアリ・ウルストンクラフトとマライア・エッジワースのテクストを通して――
- 高橋秀太郎(東北大・院・国文学)
太宰治の昭和十年前後 ――「女生徒」論――
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12月16日(土)
仙台文学館の一室をお借りして、第5回文学・思想懇話会(うたたね会)が開催された。
(※ 以下、写真はクリックするとおおきめに表示されます。)
雨のそぼ降るなか、三々五々参集し、歓談しながらはじまるまでの時間をすごす。
今回は、論文集『近代の夢と知性』刊行後はじめての集まりだったこともあり、論文集執筆者である、ケビン・M・ドーク氏、柳瀬善治氏も遠路はるばるお越しいただき、盛況であった。
開始時間の14時にようやく発表者が到着するなど、ハラハラする一幕もあったが、ほぼ時間どおりに開会した。
今回の発表は、上記の二本。
高橋秀太郎氏の発表は、太宰治「女生徒」が依拠したノートとの比較から、「女生徒」の特質を浮かびあがらせることからはじめられた。このテクストにおいては、「奥さん」「母」「姉」といった制度的性役割への自己同一化を志向する言述と、それへの異和が「女生徒」の語り口によって提示されている。ある種の役割カテゴリーに自己を同一化させようとするかのごとき志向性が愚直に表明されるのではなく、それへの異和を含めて語り出されるというこのテクストの傾向は、「真実」をあえて「信実」と記し、虚実のカテゴリーではなく、「信じる」ことにおいてアイロニックに受けとめようとする、当時の太宰の小説・エッセイ群を通覧したときに散見される「信」の態度と関連するとし、保田與重郎や亀井勝一郎のロマン主義的イロニーとの差異を論じた。 発表では、「女生徒」の文体がもつ戦略的意義については触れられていなかったが、そのために日本浪曼派のロマンッティッシュ・イロニーの戦略との差異が十分にとらえきれなくなっているように思われた。
赤木いづみ氏の発表は、女権拡張論者メアリ・ウルストンクラフトの女権論が、当時の植民地政策の論争を背景としていることを指摘し、植民地奴隷制度に女性の社会的地位をなぞらえて主張されていることを示し、次いで、彼女の女権論が引用されたマライア・エッジワースの小説『ベリンダ』が、理論的にはウルストンクラフトと根本的な点で異なりながらも、物語の形象の次元では受け継いでいることを指摘する発表であった。のちに改訂されてしまうが、『ベリンダ』初版では黒人と英国の田舎娘の結婚のエピソードや、クレオール(この言葉は、当時においては、英国領西インド諸島で生まれた英国人を指して使われた)との恋愛-結婚をめぐる物語などが書かれており、その点でウルストンクラフトの主張と通底する小説たりえており、女性及び黒人を隷属から解放せよというウルストンクラフトのメッセージは確実に『ベリンダ』へと受け継がれていることを論じた。 報告者にとっては教えられることばかりの発表であったが、質疑では、ルソーの権利の理論との差異、産業革命との同時代性の観点から考える必要性などの質問が出された。
発表会の終了後、バス等で仙台市街に移動して懇親会も催された。会場は、安吾ゆかりとされる中華料理のお店、祥發順で、26名もの方々が集まり、論文集刊行の打ち上げも兼ねての宴となった。
その場では、安吾と仙台について、加藤達彦氏による報告と、店の方から安吾についてお聞きしたうえ、店が紹介されたとされる雑誌の調査に東京まで赴いた土屋忍氏の報告(結果は新資料の発見にはいたらず残念)がなされるなど、楽しくも充実した時間となった。
12月17日(日)
明けて午前10時より、仙台市情報・産業プラザ 特別会議室、セミナー室(仙台市青葉区
中央 1-3-1 AERビル6階)にて、論文集執筆者9名が参加して、合評会が行われた。
参加した執筆者による各自の論文のモチーフと、論文集の他の論文の論点との関連等につき発言がなされ、主に今回の論文では言及し得なかった点について今後の研究に資する意見交換がなされた。
両日にわたり楽しく充実した集まりとなったことを、運営にたずさわった者として感謝申しあげます。
文学・思想懇話会
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